太賀&吉田羊が共演『母さんがどんなに僕を嫌いでも』原作者・歌川たいじインタビュー



太賀、吉田羊が親子役で共演する映画『母さんがどんなに僕を嫌いでも』が11月16日に公開される。
主人公は傷つきやすく不安定な母親から日常的に暴力を振るわれて育ち、10代で家を出ることを余儀なくされた青年・タイジ。大人になり社会の中で理解者を見つけたタイジは、彼らの手助けを受けながら、母親との絆をとり戻そうと奮闘する。

原作は歌川たいじ著の同名漫画。ブロガー・作家の歌川は、2009年にスタートした人気ブログ『♂♂ ゲイです、ほぼ夫婦です』に加え、小説や漫画を執筆している。本作は歌川の体験にもとづいた、実話の物語。自身の壮絶な半生を作品にした理由、当時と今の母親への気持ちなど、本作への想いを伺った。

【ストーリー】タイジ(太賀)は都内の会社に務めるサラリーマン。1人暮らしで平穏な日々をおくるタイジには、情緒不安定な母親(吉田羊)に幼い頃から暴力を振るわれて育ち、10代で家を出た過去があった。大好きな母親に愛してもらえなかった悲しみから、自分に自信を持てなくなっていたが、周囲の人や友人との交流を通して、徐々に笑顔をとり戻していく。そんな中、絶縁状態だった母親から突然の連絡が。母親が窮地に立たされていることを知ったタイジは、それでも息子の自分を拒絶する彼女の姿を見て、もう一度親子の絆を築き直そうと決心する。

Q.なぜお母さんとのお話を作品にしようと思われたのでしょうか?
この話は「あんなクソ親を私は許しました、ドヤねん!」と言いたくて書いたわけじゃなくて(笑)本書を書いたとき僕はもう46歳くらいで、過去を乗り越えてきて、人生の収支がやや黒字くらいになってきたかなっていう時でした。だから同じような痛みを抱えている人に「収支はちゃんと黒字にできますよ」ってメッセージを伝えたくて書きました。

乗り越えるまでの間に、こんな人がこんな言葉をくれました、こんな接し方をしてくれましたっていうことを全部書いて、彼らが与えてくれたように僕も伝えたい。同じようなつらい状況にいる人にも、そうじゃない人にも、こういう寄り添いが僕を救ってくれましたって伝えたいと思いました。

Q.物語のメインテーマはお母さんとの関係そのものよりも、主人公・タイジを励ましてくれたり支えてくれた周囲の人たちとの関係では……と感じました。
その通りです。現在、社会的にたまたま虐待やネグレクトがクローズアップされているので、物語のその部分が注目されやすいのですが、私は「こんなにいい友達が、こうやって支えてくれた」というところをたくさん見てほしいです。

Q.キミツ(タイジの親友の1人)は最後まで見ると本当にいい人ですが、登場シーンでは「貧乏人は働きなさ~い」なんて言ったり、イヤなやつにも見えました。実際のキミツさんは映画を見て「俺はあんなイヤなやつじゃないよ」とかおっしゃっていませんでしたか?
キミツのキャラクターは、原作でも盛っているように見えるかもしれないんですが、実際は軽減していますから。信じてもらえる範囲内で止めています。あの通りなので、大丈夫です(笑)本人はむしろ「こんないいやつじゃなかったよ」という反応でした。

Q.太賀さん演じるタイジはとても素直ないい子で、だからいい友達が集まってきたのかなと思いました。歌川さん自身は人間関係において、何か気をつけていることはありますか?
僕の美貌に引き寄せられて……ってことはないと思うので、僕に本当にいい友達がいてくれるっていうのは、僕が相手のいいところしか見なかったからだと思います。

虐待やいじめは、本人の自己イメージをぺしゃんこに叩き潰しちゃう。DVもそうですよね。「お前は最低なやつなんだ、だからやられるんだ」って信じ込まされてしまう。なので、立ち直るまですごく時間がかかるんですけど、僕の場合はばあちゃん(タイジを孫のように可愛がってくれた知人)がその思い込みを解いてくれました。

本来の自分は人が好きで、誰かと知り合ったら仲良くなりたい、楽しくしゃべりたいって思っているんです。でも今まで人と打ち解けたことがないから、どうしたらいいのかわからなかった。同年代の子たちが楽しそうにしているのを見るとすごく憧れる、なんとかしてあの中に入っていきたいとすごく強く望んでいました。

人間同士ですから「一緒に来ない?」「一緒に食べない?」って声をかけてもらえることもあるので、そんなときに僕は全力でかじりついて行ったんだと思います。何人かは失敗して離れてしまいましたが、何人かは残ってくれた。その中にキミツと大将とかなちゃん(劇中に登場する親友たち)がいて。
そんな彼らに対して、僕は相手のいいところしか見ようとしませんでした。本当は人間同士だから合わないところもあったと思うんですが、そんなのいい!って。とにかくみんなのそばにいたい、そばにいてほしいと。だから原作のネームを書いたとき、知人に見せたら「これじゃ大将、天使じゃん」って言われました(笑)

でも、僕が大人になって母と向き合うことになったとき、友人たちが背中を押す言葉をかけてくれたのですが、もしそれまでに築いた関係性がなかったら彼らの言葉に耳をかさなかったかもしれないし、「説教っすか?」とか思ってしまったかもしれない。言葉そのものよりも大将を信じよう、キミツを信じようって思えた。だから、相手のいいところだけを見て全力でかじりついてきた自分、グッジョブ!と思っています。

Q.タイジは自分からお母さんを理解しよう、助けようと行動を起こしますが、歌川さんにとってお母さんは、母親になりきれない少女のような存在だったのでしょうか?
そうだったと思います。未成熟な部分がいっぱいあって、それを覆い隠してなんかカリスマっぽくなっていたりとか。でも内側には矛盾するところがいっぱいあって。たぶん、すごく傷つきやすかったんだと思うんです。傷ついた熊とか強くなるじゃないですか。傷がいっぱいあるものだから凶暴になってしまったのかなって思います。

Q. 母親を守ってあげようという気持ちになりましたか?
すぐにはなりませんでした。幼い頃は母親にしか見えなかったし……。
でも母から離れて自活するようになってからは、なんとなく不安定で、生きていて大変だろうなって。そうして母が危機に陥って、そこからですね。守ってあげるというか、ちゃんと息子をやりましょうって。それをすることで、僕の方も救われる何かがあるんじゃないかと思いました。

僕は本当に揺らぎやすいし、不安定だし、そんな自分を感じるごとに親のことを恨んでいました。
でもある程度いろいろ乗り越えて大人になったので、じゃあもう一回、母親との関係を築き直すことで、成長過程で得られなかった自己形成の土台みたいなものを、自分で作れるんじゃないかと。
傷はいっぱいあるけど消えるものでもないから、傷が全部誇りになるような新しい記憶をこれから作りましょう、こんなスンバラシイ親孝行したらそれがすばらしい記憶になるんじゃないかと思ったので頑張りました。2年間、母に振り回されっぱなしだったけど……って、最後に愚痴ってどうする(笑)

Q.歌川さんはもともと絵を描くことがあまり好きじゃなかったと耳にしました。また歌川さんは漫画の他に、小説という表現方法もお持ちですが、このお話を漫画で描こうと思われたのは、テーマが重たいから漫画の方がとっつきやすくなるという期待があったのでしょうか?
はい、できるだけたくさんの人に読んでほしかったので。小説は読むのにすごく時間がかかるけど、漫画はパッと見るだけですごい量の情報が伝わります。絵の持つ熱伝導率みたいなものにチップを張って、漫画で企画を持ち込みました。
でも今は子ども向けの児童書として、テキスト版も出しています。どんな気持ちでその時いたのかとか、どんな風に怖かった、どんな風に痛かった、どんな風に悲しかったっていうことが、やっぱりテキストで書いた方が僕は伝わると思うんです。なので、それはテキストで書きました。
映画化の話を聞いたときも、本だったら読まないけど映画なら見るという人もいるかもしれないと、ぜひ映画にしてほしいと思いました。

Q.こうしてお母さんのことを話せるようになったのは、ご自身の中で消化できたからでしょうか?
そうです。幸せだから言えるんだと思います。僕はもう、明日死んだとしても収支は黒字だったなって思えますから。

実はこの映画について「見たいけど怖くて見られない」って僕に言う人もいます。
僕が子どもだった頃は、親は子が可愛いからぶつんだって時代でした。そんな時代から、児童相談所や児童虐待防止法ができました。でも虐待されている子どもの状況が大きく変わったのかというと、全然そうでもなくて。依然として、虐待されて心に深い傷を負う子どもはたくさんいますし、命を失い場合だってある。結局「勇気がなくて虐待のような問題とは向き合えない」って言う人がいっぱいいる限りは変わらないんです。

そうした中でも、児童相談所の人たちも虐待に関心のある人たちも、なんとかしようと頑張っている。だから僕も、自分の過去をさらけ出してでも訴えていく意味があるなって。
今回の映画のことも長い目で見て、劇場上映が終わった後も例えばホール上映だったり、たくさんの人に見てほしいと思います。届くところにちゃんと届いてほしいと。

Q.最後に、これから映画をご覧になる方に一言お願いします。
最初に言っちゃったことなんですけど、この話は「こんなクソ親を許しましたドヤねん」って映画ではなくて。たくさん傷を抱えて生きている人はいっぱいいるけども、私はみんな幸せになれると思っています。私も今、幸せです。幸せになれるまでに、ばあちゃんや友人たちがこんなことを言ってくれましたっていうのが、この映画の中にぎゅっと詰まっています。ぜひそれを受けとってください。

取材 澤田絵里、撮影 南野こずえ

『母さんがどんなに僕を嫌いでも』
配給・宣伝:REGENTS
(C)2018「母さんがどんなに僕を嫌いでも」製作委員会
11月16日(金)より新宿ピカデリー、シネスイッチ銀座、イオンシネマほか全国公開!

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